#11.5

むせ返る暑さよりもハイコントラストが刻まれていて,既視感に人は安心するから,好きか嫌いかは別にして,今年も夏が来たってとりあえず安心する.聴いてもないのに窓から吹いて来る往年のサマーチューンは化学の味しかしないアイスがデロデロに溶けた匂いがする.色の洪水,女の子の幻影を追い続けている.オレンジ色の肌,先端の丸い太線.流行は繰り返すというけれど,1980年代の夏も同じような光だったんだろう.

国交省が発表した大都市圏パーソントリップ調査の結果によると,20代の休日のトリップ数が60代のそれよりも下回っている.そうだよ.20代は脳内で”トリップ”を繰り返しているからね.ネットサーフィンなんて死語だぜ,ネットの海はどこにも連れて行ってくれないんだから.その代わり水平線の先に一瞬見えたようなあるいは海の先にあると噂される楽園へと脳みそのメモリの大半を使って意識のテレポートを遂行する.ニライカナイホリゾンタルな移動なんだが,個々人の想像力に左右されるって言ったら事実だけど興醒めだよね.昨日も今日も明日も,これが欲しいんやろ?って勝手にランプの魔神が出て来るメカニズムを知ってしまったから,見ている水平線の先の景色も蜃気楼なのだと疑いにかかってしまうし,書き割りのようにも見えてくる.身体の移動回数が低下してるなーんて大騒ぎだったけど,脳内”トリップ”の回数も飛距離も減少していく,こっからが問題の本番.ヴァーチャルリアリティなんて死語だぜ.そいつもどこにも連れて行ってくれないんだから.

1980年代の夏の光は知ることができない.

2017年07月23日 の日記より抜粋 Diary — 夏の光

こんときはオリンピックもあるって思ってた