#75

2022年4月号の土木学会誌で「Allyにつながる途」と題した特集を担当したのでその感想.

一番力を入れたのはアンケートだった.取りこぼしている属性はないか,戦々恐々としながら設計をした.英語版も作成し,とにかく回答する人がいなくとも全ての人のためのアンケートであるということが伝わればいい,そういった心持ちで設問を考えた.アンケートに答える時,自分のような人間は想定されていないのだろうな,という疎外を感じたことがある.そういった思いを誰にもさせたくなかった.

タイトルも編集メンバー全員で捻り出したものだが,Allyという言葉を使ってはどうか,と思い切って提案してみた.Ally という言葉を使うことの重みがあるので,緊張はもちろんあったが,マイノリティに対して取るべき態度を示すのに一番適していると考えてのことだった.森さんの原稿があがってきて「Allyはなるものではない」との主旨に再び背筋が伸びた.他者に簡単に求められるものでもなく,自ら行うには困難な言葉ではあるが,そういった考え方があるのだと知って欲しい(私も知った)という思いだ.

特集を作っていく過程で,何度もストップを出した.本当にそれでいいんでしたっけ?ということを何度も言った.でもそうしたことが言い出しやすい空気があったのは確かで,他の編集メンバーの人徳というか人柄に支えられたと思う.こういう雰囲気を持ったチーム作りができるように尽力したい.

リリース後は,ポジティブな反応を多くいただいた.LGBTQ+の当事者の方にも届き,よく考えられているとの声に心からホッとした.学会誌という性質上土木学会員しか読めないのはもったいないのでweb公開してはどうかというコメントもいただき,是非そうしたいと思ったが私の管轄ではないのが残念.

反省点としては土木そのものが孕んでいる植民地主義的態度については触れられなかったことである.英国土木学会(ICE)のアンケートではICEの歴史における植民地主義に対する認識がない,という指摘がある(https://www.ice.org.uk/media/2bmddjpv/fir-survey-racism-in-civil-engineering.pdf)土木業界の中にいると「土木をもっと魅力的に見せなくては」という声は大きい.土木事業が持つ原罪性であったり,過去の負の遺産について論じられなければならなかったのではないかと思う.

また日本の土木学会自体,大学だけでなく大手ゼネコンやコンサルなど土木事業において上流にいる人でほぼほぼ構成されており,現場で汗水垂らして働いている人は,アンケート含めてほぼ参画していない歪さに対する自覚とアクションが足りなかった.難しいのは確かだが,土木学会員の身の回りだけが土木業界ではない,ということはもう少し強調されるべきだったはず.

 

追記(2022/9/28)

実施したアンケートについて,土木学会全国大会で発表を行った.土木業界と言っても様々な業種が存在することから業種別の差別経験や意識の集計があっても良いというコメント,具体的なアクションプランへの展開についてのコメントを頂いた.