#74

4月末に研究合宿に行ったのでそのメモ書きを.

1日目

ターミナル駅における空間の作り方としてSRCでスパンを飛ばすやり方がある.コンコースの作り方は東西軸・南北軸をいかにして通すかが重要.金沢西口駅前,バスとタクシーバースの屋根がやや重いか,富山駅前の方が軽やかであった.表面を木貼りにして工夫していたが2010年代っぽいと後に評される可能性もあり,半減期の長いデザインの難しさを知る.

金沢市内は鞍月用水を訪れる.鞍月用水は犀川から取水しており,水量が多い.近世の築城の際に建設されたとしているが詳細の年代は不明.水車の動力源でもあり日本第2位の製糸工場を動かしていた.近世の遺跡が近代化に資するというのが面白い.

鈴木大拙館,人を黙らせ,静かにさせる空間のつくりって確かにあると思った.青紅葉に映り込む水面の煌めきが美しい.それは水盤に1人静かに向き合っていないと気づかないことでもある.時折水が動いて波紋ができる.波紋のゆらめきもまた静かさを助長させている.

2日目

北前船の里資料館.北前船が衰退したのは単に鉄道網の発展だけではなく,電信が発達することで物価の相場がわかってしまい,差額で利益を得ていた北前船のビジネスモデルが成立しなくなったためだという記述が非常に面白かった.現代においても情報がある領域を衰退させていることがあるだろう.非常に示唆的だった. 山中,山代の土地台帳取って道後と比較して研究したい.特に山中は街の中心に総湯があり道後と構成が似ている一方で昭和6年に大火があり,道路の拡幅など空間構造は大きく変わっている.道路拡幅と土地所有の変化,新陳代謝の違いが見られると面白いのだが如何せん予算がない......

3日目

富山の月岡で列車待ちの間、通り雨がパラパラと降ってきて、電車に雨粒が当たる音がかえってしんとした静けさを引き立たせていて美しかった.

借地・借家で土地を手放さなかったことで、外側に町が広がっていって衰退した。車に対して都市形成史をやるのは難しい。茶屋町みたいにテーマパーク的につくってしまうのも手だが…… 復興にせよ,こうした在郷町の再興にせよ,産業がないのは辛い.国土論や地方の立地適正化の肝は産業をどのように誘致するかによるのだと思う.そう思うと,企業の立地パターンというのが非常に重要で,都市モデルでは欠かせないのだろう.

富山はすごくいい雰囲気だった.駅の作り,新幹線と在来線の建物のつなぎが非常に妙があって,屋根をかけるだけでも一体感ができる.JRの駅舎に対してフラットにLRTが挿入されているのもよかった.中心市街地の作りもかなりセンスが良くて,何かしなくとも良い空間があるように思った.何かしなくとも良い空間にいられるというのは都市生活者の特権ではないか.モータリゼーションの進展はドアトゥドアの生活を可能にしたが,働くこと,家庭のこと以外の余白を限りなく減らしてしまった.職場では仕事を抱え,家でも役割を求められる生活者にとって,何かの役割を課せられていない時間は,その人に与えられた自由の時間でもあり,生存を助けることもあろうと思う.富山の中心市街地にはそれがあった.私がなんとなしにピアノを弾いたら子どもが駆け寄ってきてピアノを弾いた.活動の連鎖がそこにあった.若者がなんとなしに溜まっている光景がその証左だった.

セイファースペースを作ろうという話だが,私がやりたかったのはこれだったんじゃないかとも思う.セーファースペースとは,疎外感を感じている人同士が集まって疎外された経験について話し合う場所のことを指す.街に疎外されている感覚はある人にはあると思うし,実際に排除されている人もいる.本当はそういう人たちのためのスペースを,都市を作りたかったんだなと振り返って思う.そのためのストックをもっと持てるように都市を見るべきだったなとも.少なくとも今日の富山にはそれがあったと思う.