#73

『私ときどきレッサーパンダ』をみた.

きっかけは主人公のメイのビジュアルが,小6くらいの私自身の自己認識と一致していて「私の登場する物語かもしれない」という興味と期待からだった.結論からいうとめちゃくちゃ面白く,私にとって大事な一本になった.

まず,メイの友達のリアルにいた感じで少し涙腺が刺激された.あの「いたいた!」というキャラ造形は『あたしンち』以来なんじゃないか.『あたしンち』じゃなくてグローバルなPIXAR でしかも住んだことないトロントでそういった感覚を与えてくれるってすごいことなんじゃないかと思う.物語の中に「私たち」がいるという感覚にこんなに勇気づけられるもんなのかと驚いている,と同時に,描かれまくってきた他の属性が羨ましくもあった.みんなこんな映画体験してたの?

だから批評よりも,この映画を見た時の自分の心の動きを大切にしたいと思った.

私自身絵を描くタイプのオタクだったし,私の親も,私の趣味を許してくれなかった時期があったのでメイに共感するところがあったけれど,描写のディテールが生々しすぎて初見の前半45分は心ここにあらずだった ナマモノ創作親バレに加えて御本尊凸や,プレゼンしても無駄だからバレないようにこっそりチケット代を稼ぐシークエンスは叫び出したいくらいのリアリティがあった. (実際私も親に黙って東京の即売会に行こうとしたことがバレて,とんでもなく叱られたことがあったのでハラハラしっぱなしだった)

そうしたハラハラから後半は急転直下して泣きまくりだったので,情緒がジェットコースターになる映画なのだ. 特に泣けたのは,メイの父親がメイに語りかけるシーン,メイのママが泣きながら感情を吐露するシーンで,この部分は何回観ても涙腺が緩んでしまう(思い出しただけでも緩むレベル).このシーンはメイのママに共感してしまい,そう,うまくやれない私も私なのだとそう責めないでよかったのだと身につまされるのだ.

ネットを見るとメイのママは毒親だという見方もあるようだが,私はあまりしっくりきていない.メイが家族を大事にする気持ちは抑圧もあるだろうが本心でもあるし,家からの離脱はまだまだ世間的に守られる立場である13歳には流石に酷だと思う.確かに家から逃げる可能性については提示されなかったけれど,作品を通して感じられるローティーンのハイテンポコメディーにはそぐわなかったんじゃないかと.メイがもう少し大人だったら他の可能性はあったと思うが.

もう一つよかったのがメイキングドキュメンタリーだ.劇場公開されなかったのは本当に残念だが(ラストのシーンは映画館映えするし),本編を見た後すぐにドキュメンタリーにアクセスできるという点においては配信のメリットがあると思う.PIXARの仕事場が本当に楽しそうでそれだけで泣きそうだった.綺麗なところだけが映っているのだと思うが,こういう働き方ができればいいと思うし,監督のようにいい雰囲気のチームを作りたい.妊娠中の女性,女性同士カップル,思春期の子どもを育てる家庭,いろんなライフステージのいろんな生活が当たり前にあって皆働いていることにエンパワメントされた.

監督,この映画の企画が始まった時,私と同い年くらいだと思う.天才はいるな,と思う反面.映画とドキュメンタリーが教えてくれた,完璧でなくとも支えあいながら生きていければいい.