#6

所用で大学に行ったら自然が卓越していた.広場の雑草は膝丈ほどに,とこどこ生えているシロツメクサですら脛まで伸びている.金木犀の木陰はこんなにも濃かっただろうか.先行き不透明,うまく伝えられないメールの返信待ち,荒々しくも健やかに伸びている草木が文字通り眩しかった.

あまりに暑かったものだから,2ヶ月くらい行ってないんだし偶には,と滅多に飲まないフラペチーノを頼もうとスタバに向かったらG先生に出くわした.久しぶり!の喜びも束の間,マスク着用かつ床面のシールに従って距離を保ちながらの会話は非常に困難だった.口元が見えるってこんな重要だったっけか.遠い距離での雑談はとんでもなく滑稽で,内容が個人的な分,ニュースキャスターと解説者が距離を取ってスタジオに神妙な顔で座っているあのバカバカしさをはるかに上回っていたと思う.何を律儀にシールに従ってエスプレッソアフォガードフラペチーノを待っているんだ.エスプレッソショットを追加してやればよかった,なんならスタバに入る前はゴテゴテにカスタマイズした抹茶クリームフラペチーノを頼もうと決めていたはずなのに,成り行きに任せてしまっている.「うおーっ」と叫びながら,距離を侵略してやりたい衝動なんてまやかしだ,ショットの一つも追加できない人間なのだから.同時に提供された先生のショートサイズのアイスコーヒーに諌められている気がして,慌ててストローを挿した.”大人のフラペチーノ”は案の定甘ったるかった.

こうして話をしたことも全て記録に残しておく必要があるようになった.幸いなことに長らくGPS付きで自分の行動データのログを取っている.そのことを伝えると失礼,僕らの業界では当たり前だったねと言われて,窓を見つけた心地がした.もう一度研究室の前を通ると,入れはしないが,窓は開け放たれてた.

帰宅して腱を見やると,靴擦れが今にも破裂しそうな水膨れになっていた.今まで出来たことなかったのに,歩き方の癖が変わってしまったためだと思われる.水膨れは潰さず自然に治癒するまで摩擦を避けて放置するのが得策だという.